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第276段:改まらない生活習慣 |
インフルエンザのシーズンの後半から花粉症の患者さんが増え始め、多忙な日が続きました。
3月に入ると少しばかり診察時間に余裕ができ、定期的に受診される生活習慣病とも呼ばれる糖尿病や高血圧症の方々との会話が長くなります。
忙しい時期には検査結果の説明や日常生活の注意をして質問がないかを聞けば診察終了ですが、暇になれば少しばかり診察にも工夫を加えます。
「今日の体重は昨年と比べて1kg増えていますね。一昨年と比べると2.5kg増えていますよ。原因はどこにあるのでしょうか?」と問いかけます。
体重1kgの増加は365日に分ければ、わずか1日で2.7gほどです、肥満の体重増加の大半は皮下脂肪ですが、1kgの皮下脂肪は約7000キロカロリーに相当します。
1年では1日20キロカロリー程度の摂取過多か消費不足です。体重60kgの人なら1日5分の歩行時間のカロリー消費ですし、食べ物ならピーナッツの3・4粒の量です。
「食べるといけないのも知っているよ、運動不足は百も承知、塩気の多いのもだめ。脂っこいのもね。でもうまさには負けちゃうね、酒も付き合いだし、気持ちは控えちゃいるけどまだ多いね。先生、一粒飲んだらパーッと合格点になるような薬を発明してよ」などと大同小異の答えが返ってきます。暇な時期ですから、ここから勝負です。
「朝起きて、夜寝るまでに絶対欠かさない行動がありますね。食事、トイレ、仕事あ
るいは、傍から見ると趣味や癖、儀式としか思えないような独自の行動ですけど、これらはあなたにとってはすごく満足度の高い行動なのですよ。ところが、いわゆる生活習慣病の改善に役立つような運動や食べ方は自分にとって重要と思えない、あるいは快適なことや喜びに直接的に結びつかないから知識はあっても行動が起こせないのですよ」と切り返していました。
気がつけば医者の私が患者さんを追い詰めている。
「わかっちゃいるけど、毎日の行動を変えることって難しいですよ、僕だって生活習慣病の塊で何も出来ていませんから」と続けて、患者さんの立場を理解していることを示さないと診療が続きません。
流れていく時間の中で今はこれをしたい、今度の仕事は断れないなどと行動していると運動の時間などは消えてしまいます。食べ始めたら食欲の固まりになり、もったいないと食べつくすまで口や手が動き続ける、食後に訪れる幸福感、その後、食べてしまったという罪悪感がわずかに出てくるが、食事を制限するのは次の食事、あるいは明日からと自分に言い聞かせてしまう。そんな行動を繰り返しながら生活習慣病は進行してゆきます。
タバコは止めて何年もたつのに、あのころタバコを吸うために使っていた無駄な時間はどこに・・・健康のために行動する時間を作ってみましょう。
1分作るとそれが5分になりやがて生活の中に健康のための時間が確立します。そんなことに気がついてもらって、「何か一つ行動を変えてみましょう」という話が出てきたら診療は終了。
でも、次の診察日にはご破算になっているのが生活習慣なのです。
「いわみ談話室」から