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第311段:開業医の一日 |
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5月ある日、朝7時に携帯電話が鳴りました。診療所からの転送です。
朝の電話は、前夜から連絡をしたかった患者さんや家族からの連絡が多いので少し緊張します。
数日前から容体の悪化していた患者さんの家族からの呼び出しでした。
診察してみると容体は悪く、前回の往診時には「もう入院はさせたくない」との希望もあり積極的な治療をさし控えていましたから「今夜か明日までしか持ちませんよ」とお話しすると、家族からは不安な様子が伺えます。
「様子が変わったり、心配だったりしたときにはまたご連絡ください」と伝えて患者さん宅を後にしました。
朝の6時半ごろから、車の中で玄関が開くのを待っておられた患者さんご夫妻から診療開始となりました。
既に2時間待ちです。
何人目かの患者さんが、「先生!俺みたいな賞味期限切れの人間はそろそろ、おさらばしないといけないねえ」と話し始めました。
「そんなに簡単に逝かないでください、あなたの体には資本がかけてあるのだから、心筋梗塞を起こしてヘリコプターで山の中から運んで命拾いしたのを忘れたのですか?」と笑いながらの会話です。
しばらくすると女の子が入ってきました。
「私は12歳だからちゃんとできるから・・・」と話していましたが、診察してみると「インフルエンザみたいだから検査を・・・」と声をかけたら途端に母親にすがりついて鼻を両手でふさいでしまいました。
「12歳で大人だから、頑張ろう」と綿棒を鼻の穴に、結果はB型インフルエンザ、「やっぱりまだまだ子供ね。」のお母さんの言葉で笑いが出てきました。
朝からの診療が終わるとケアマネと介護プランを確認、指示を出して昼食になりました。
午後の診療開始までの2時間の間に、朝往診した患者さん宅に様子を伺いに出かけました。
朝よりも悪化していました。
その後の対応をお願いして、学校医をしている小学校に向いました。
養護教諭と学校保健委員会の打ち合わせや子どもたちの心や健康問題の情報交換を済ませると、午後の診療開始時間でした。
名前を呼んで顔を見るとなじみの患者さん、名字が変わっています。
「結婚して、妊娠しているけどこの薬は使えますか?」と話し始められました。
次の患者さんは「娘の所に1カ月の予定で遊びに行っていたけど、たまたま血圧を測ったら190もあるから驚いて、予定を早めて帰ってきました」と話されます。
落ち着いて測定すれば血圧は120台、「もう一度、娘さんの所に帰りますか?」と聞けば「5時間近くも車に乗って帰ってきたのに、もう行きません」とほっとしながら話されます。
結局、この日は3歳から89歳まで60人ほどの診療でした。
夕食後、仕事場に戻りレントゲン写真の再チェックや残った仕事を片付けていた午後9時過ぎに呼び出され、朝の患者さん宅に向かいました。
ご臨終でした。
今年に入って5枚目の在宅死の患者さんの死亡診断書を書き終えた時には時計は午後10時を回っていました。
『いわみ談話室』より
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