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心にうつりゆくそぞろごと
「心にうつりゆくそぞろごとを、そこはかとなく書きまぎらわしたるもの」を紹介しようと思い立ちました。
徒然草のごとく「日くらし硯に向かう」ほど暇ではありませんが、「心にうつりゆくよしなしごと」よいうか「そぞろごと」は、いくつも現れてきます。医学書を作るよりもこの方が人間味のある文になるのではないかと思います。
しばらくは「私の心にうつりゆくそぞろごと」とおつき合い下さい・・・

  第178段:毒娘と漢方  

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殺人事件でも利用される鳥兜(トリカブト)、附子(ブシ)、烏頭(ウズ)などとも呼ばれることがあります。
使用する根の部分によって名前が異なります。
確かに「きれいな花には毒がある」といわれるように、ハナトリカブトはきれいな紫色の花をつけます。
このトリカブトは加熱してやると毒性が弱まるため、医師が強心薬や利尿剤として用いるときには加熱をしたものを使います。
冷え性の治療薬にも含まれていることが多いのです。
ですから使い方を誤らなければきわめて有効な薬です。
毒性をあらわさないように少量から飲み始めてゆくと副作用や不都合な反応を押さえることができるからです。

昔の話で真偽の程は定かではありませんが、トリカブトを少量づつ食べると体が毒に慣れ(医学的には耐性を獲得したいいます。)初めて食べた人なら中毒死する量でも、慣れている人間は何ともないという状態にすることができます。
こうして毒に慣れた娘を相手方の組織のトップに嫁がせ一緒に食事をするとトリカブトを食べたことのない人はすぐに中毒死してしまいますが、一緒に食事をしていたために食品には疑いが掛けられないので娘には疑いの目が向けられないという話です。
このように薬草や毒物に耐性を獲得した娘を毒娘と呼んだわけです。

トリカブトの持つ不思議さと、慎重に扱えば毒も毒ではなくなるという証拠の話です。
また漢方薬の奥深い世界にはこのようなトリカブトの中毒を見つけた時の解毒法(救命法)も書いてあるようですが、私はその方法を知りません。

この話のもう一つのポイントは漢方薬でも同じくすりを長く飲んでいると時には効かなくなる可能性もあるという点です。
抗生物質などが効かなくなるメカニズムとは若干違いますが、長期に連用すると効かなくなるという点では同じかもしれません。
漢方薬だから長く飲まないと効かないという話は真理ではないと以前に書きましたが、トリカブトの効き方を見ているとそれを如実に感じます。
冷え性の患者さんなどは夏と冬とではトリカブトの量が3倍くらいに増えたり減ったりします。
手を変え品を代えながら治療しているのです。

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