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心にうつりゆくそぞろごと
「心にうつりゆくそぞろごとを、そこはかとなく書きまぎらわしたるもの」を紹介しようと思い立ちました。
徒然草のごとく「日くらし硯に向かう」ほど暇ではありませんが、「心にうつりゆくよしなしごと」よいうか「そぞろごと」は、いくつも現れてきます。医学書を作るよりもこの方が人間味のある文になるのではないかと思います。
しばらくは「私の心にうつりゆくそぞろごと」とおつき合い下さい・・・

  第190段:ボケているのか、いないのか  

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先日アルツハイマー病の親を持つ方と話をしていました。
「ボケていると医師に言われたけれど、まともな時もありますよ。
まだボケていないのでしょ?」と子供さん、私は「でも医師からは痴呆があるといわれたのでしょ。」と返しました。
ここまで来てやっと気が付きました。
医師の方はほんの僅かでもボケ症状を認めれば「ボケがあります。」と宣言します。
家族の方はまともなところが少しでもあれば「まともなところもあるからボケじゃない。」と考えられているのです。

数年前に別の患者さんの家族に「お宅のご老人はボケ症状がありますので・・・・」と話したところ、「そんなことはありませんっ! 先生は勝手に私の親をボケたと判定してけしからん」と憤慨されたことがありました。
考えてみれば当たり前のこと、親を早くだめな人間と宣言したい子はいません。
少しでもまともなところがあれば「まだボケていない」と判断するのが当然です。

痴呆の専門医でない医師が比較的良く用いる簡単な痴呆の検査は、「改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R)というテストです。
専門医の方々は更に詳しい検査法を使用されますが、一般的にはこの長谷川式と呼ばれる検査が主流のはずです。
30点満点で20点以下の場合に痴呆の存在を疑わせます。

テストをしてみると意外な方が痴呆であったり逆の場合があったりで、時々自分の印象と違っていたりします。
100から7を順に引いてゆく計算では、計算ができないのを傍で見ている家族が呆然とされるシーンにしばしば遭遇します。
検査が終わってご家族に説明をしても痴呆という診断結果が受け入れられない家族も少なくありません。
尊敬していた自分の親が100−7の計算ができない。あるいは6、8、2という3桁の数字を逆唱させても2、8、6と答えられないという現実に驚かれます。

繰り返しますが、医師はボケている兆候があればすぐに「ボケの兆候があります」といいますが、家族はまともな返答がほとんどなくなるまでボケていることを認めたがりません。
このあたりがボケ老人を家族が受け入れることの難しさでしょう。

1975年には日本では高齢者の痴呆ではアルツハイマー病の割合が少なかったのですが、1995年の同じ調査ではアルツハイマー病のほうがはるかに多くなりました。

アルツハイマー病はまれな病気ではなく高齢者には比較的多い病気だということを認識してください。
アルツハイマー病は1906年11月南西ドイツ精神医学会でドイツの神経病理学者 Alois Alzheimer が51歳の女性の解剖(剖検例)結果を口演したことによりこの世に認識されました。
100年近く前に見つけられていた病気です。

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