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第202段:痴呆とのお付き合い |
「最近、物忘れが多くて」と心配して受診される患者さんが少なくありません。
「老人力がついてきたので忘却力に自信がつきました。」などと冗談で済ませる人は非常に少なく、
「ボケるのじゃないかな」と心配される方が多いのです。
痴呆の特徴は記銘力といわれる覚える能力に支障が出て日常生活で目立つことです。「昨日約束したことが何だったかは思い出せないけど、今日は何か用事があったはずだ」というのは思い出せないだけで、一度は覚えているのです。
ところが痴呆になると「そんな約束などはしたことはない、約束したことを忘れるはずはない」(思い出せないのとは違います。)と言い張ります。
覚えていないのだから忘れることもできない。
忘れるためには一度覚えなくてはならないのです。
介護をする人や、家族がこの点に気づかなければ毎回言い争いですね。
痴呆の状態に入った方はほとんど元に戻れないことが多いので、家族や介護をする人が痴呆の人の言葉を肯定してあげる、つまり痴呆の人に痴呆だと説明してもそれが覚えられなくて本人は正常だと言い張っているのですから、そうだといってあげることが上手な介護の仕方なのです。
「蛇が部屋の隅にいる」といわれたら「冬に蛇が出ることなんかない!あんたはボケているからそんなことを言っている。
どこにも蛇はいないよ」と答えるのではなく、
「どこにいますか?追っ払いましょう。」と棒切れを持って追っ払うまねをする。
そこで
「追っ払ったからいないでしょ?」といってはいけません。
「いなくなりましたか?」と聞いてみる。
「まだあそこにいる」といえば指し示されたところに出向いて蛇と格闘する。
「今度はいなくなったね」と痴呆の本人から答えがでれば大丈夫。
「外の工事の音がうるさい」といわれれば外に出て数分経過して「工事を静かにしてもらうように頼んできた」と言い、「外で誰かが話にきている」といえば話を聞きに言ってみる。
とんぼ返りではいくら痴呆の人でも気づいてしまう。
30分も1時間も間を空けるたら、痴呆の人は何の不満を言ったのかを忘れてしまう。
ちょうど良いころあいを見つけて帰ってきて説明をして幻覚が消失したことを本人が認めるまで繰り返す、こうして痴呆の人を落ち着かせるのが大切です。
幻聴や幻視などの幻覚症状は否定されてもそれを感じている人には納得できないのです。
痴呆の人は痴呆でない人には合わせられませんので、痴呆でない人が痴呆の人に合わせるしか方法はありません。
忘れているうちがまだ花です。
覚えなくなると忘れることもなくなり本人は困りませんが、周囲は困りますね。