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第234段:快適な環境はどのあたり |
私の診療所のある益田市の地区では、やっと下水道の本管に各家庭からの排水をつな
ぐ工事が始まりました。
工事を見ながら数年前の夏休みのことを思い出しました。
都会から祖父母のいる益田市内に遊びに来ていた子供が、腹痛を訴えて私の診療所を受
診したのです。
尿検査を済ませて診察室に入ってきた子供の顔を見ると全く元気です。
話を聞くと、数日前にも同じようなことがあって別の医療機関を受診したようです。
原因は祖父母の家のくみ取りトイレで排便ができず、我慢したままの生活で腹痛を起こし、受診して水洗トイレでやっと排便ができたので腹痛が消失したというのです。
田舎のトイレは暗いので夜に行くのが怖いとか、和式のトイレを使うことができない子どもがいるとか、田舎の人の生活は都会人からは忌み嫌われているようです。
あるとき東京に住む高校時代の同級生から「田舎の祖父母の家に行くのを子供が嫌っている」と聞きました。
「クーラーやシャワーはないし、虫は家に入るし、くみ取りトイレ。あんな生活イヤだ!」という子どもに、キャンプに行くと思って我慢して、と説得しているというのです。
夏休みに都会を離れて田舎で自然に触れさせて成長させたい親の心と子供の心は大きく懸け離れているのです。
下水の普及でこんな話が減ってゆき、懐かしい昔話になるのかなあと考えておりました。
考えているうちに親の気持ちと子供の気持ちのかけ離れていることにいくつか思い当たるところが出てきました。
夏休みに「小学校のプールにでも入りに行ってきたら?」と声をかけたら「プールに入っているときには涼しくて気持ちがいいけど、行きと帰りが暑くて仕方がないから家のエアコンの中がいい」と言葉を返されました。
言われてみればその通り。
クーラーやエアコンのない時分はプールや川や海ぐらいしか涼しい所はなかったから熱心に通いました。
しかし現在の子どもの考えは私の子どもの時代とは違います。
同じように冬場の遊びも変わりました。
コタツや火鉢だけの暖房の時代は家の外も中も大して変わらない温度の生活でしたから、冬でも外で体を動かしながら遊んでいましたが、現在は「何でわざわざ寒いところに出ないといけないの?」と問いかけられると返答に困るという大人が多いのではないでしょうか?
その一方で、自然がいいという信じ込みで熱帯夜の夜もエアコンも使用しないで脱水症寸前の赤ちゃんを作り出しているアパート住まいの若い父母や、薬に頼らないようにと医師も驚くほどの重症にならないと受診されない方もおられます。
都会と田舎の違いではなく、個人個人の生活様式に関する考え方は大きく異なります。
人工的な生活空間と自然環境を守った生活空間が融合した上での快適な生活を享受できるようにしていきたいのですが、どのあたりにあなたの理想があるのでしょうか?
2003年6月の山陰中央新報の『いわみ談話室」から