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心にうつりゆくそぞろごと
「心にうつりゆくそぞろごとを、そこはかとなく書きまぎらわしたるもの」を紹介しようと思い立ちました。
徒然草のごとく「日くらし硯に向かう」ほど暇ではありませんが、「心にうつりゆくよしなしごと」よいうか「そぞろごと」は、いくつも現れてきます。医学書を作るよりもこの方が人間味のある文になるのではないかと思います。
しばらくは「私の心にうつりゆくそぞろごと」とおつき合い下さい・・・

  第236段:「あなたの力で減らせる死」  

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「警察から電話です。」と電話が取り次がれました。
死体検案の出動要請です。
待合室の患者さんに事情を説明し、しばらく診療所を留守にする旨を伝え、急病の方々の診察・処置などを済ませると現場に出かけます。

医師は生きている人間ばかりを相手にしているわけではありません。
死亡診断も医師の仕事ですから正当な理由もなく断るわけにはいきません。
私は警察医ではありませんが時折、異常死体が発見されると死体検案に立ち会います。
実は、病気などで死因がはっきりしている方については死亡診断書が発行されますが、そうでない場合には死体検案書という書類作成になり、他殺や事故の可能性を考えて死亡確認の作業の一部を警察の方々とともに行います。
医師が死んでいると宣言しなければ、たとえ白骨死体でも「死んでいる」と法的に断言できる権利は医師以外には持っていません。

石見地方では年間に300〜400件の死体検案があるようですから、平均すれば1日に1件以上の異常な死者が見つかっているということです。
主には事故死や自殺、溺(でき)水や窒息などが含まれます。
休日・夜間・悪天候を問わず出動されている地域の関係者や警察官の方々の熱心な仕事にはいつも頭が下がる思いです。

私はすでにこの地で死亡診断書や死体検案書を200通以上発行していますが、そのうちの5通に1通以上が死体検案書です。
死亡診断書や死体検案書のつづりをあらためて見直してみると、一人一人のさまざまな人生の最後を想像してしまいます。
川に転落して数日後に発見されたり、山の中でてんかん発作を起こして水溜りの水を吸い込んで溺死されたり、子どもの川遊びでの溺死や風呂での溺死もありました。
旅行中の死や作業中の労災事故、ほんのわずかな時間の間に事故は起きてしまいます。自殺の場合は「なぜ?」「どうして?」がいつまでも頭を離れません。

生前の病院などへの通院状況、近所の方々からの情報で亡くなられた方の最後の時間が明らかにされて行きます。
自殺の場合、遺書があるのは約3割で残りの7割は残された関係者の推測ですから死因の究明は慎重にならざるを得ません。
(日本全体では不慮の死といわれる事故死が年間4万人弱、自殺が年間3万人ほどです。)

不慮の死といわれる事故死は減少させることが可能な死です。
自殺も諸外国に比べれば日本人の自殺率は高い方だということを認識して下さい。
(自殺率は人口10万人に対して日本23.3、アメリカ10.7、フランス17.5、ドイツ13.6、イギリス7.5です。)

心の悩みを自分ひとりで抱えず医師やカウンセラーを訪れましょう。
日常生活の中の手順や安全確認を見直してみませんか?
あなたの力で減少させることが可能な死もあります。

2003年12月の山陰中央新報「いわみ談話室」から

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