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心にうつりゆくそぞろごと
「心にうつりゆくそぞろごとを、そこはかとなく書きまぎらわしたるもの」を紹介しようと思い立ちました。
徒然草のごとく「日くらし硯に向かう」ほど暇ではありませんが、「心にうつりゆくよしなしごと」よいうか「そぞろごと」は、いくつも現れてきます。医学書を作るよりもこの方が人間味のある文になるのではないかと思います。
しばらくは「私の心にうつりゆくそぞろごと」とおつき合い下さい・・・

  第244段:生活バスの乗って  

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「次回の検査は何時にしましょうか?」との私の質問に「何時でもいいですよ、バスが通るようになったので便利になりましたから」とにっこりと答えられる老人の顔がありました。
益田市運行させている生活バスが平成14年3月1日から走りはじめて出てきた笑顔です。最寄のバス停までが4〜5キロメートルそれも山道で、自動車が自由に使える住民にはたいした不自由を感じない距離ですが、自転車や徒歩だけが頼りの交通弱者にはかなりのストレスだったようです。
天気のよい日なら問題ありませんが、雨や雪の日が大変であったことは容易に想像ができます。

10年以上も前にある老人が怪我をされ処置に通院されていました。
車のない家庭でしたので通院はタクシーでした。
片道7キロメートル以上、タクシーは自宅まで「迎えメーター」で走ってきてそれから賃走、帰りもタクシー、「1回通院すると1万円以上かかります。
治療費が高くなってもいいので通院回数が減るような治療はないですか?」という質問に、答えを探し当てられなかったことを思い出します。

そんな地域に定期バス路線が開設されました。
普段、訪問診療などに訪れる地域ですので道筋や景色に別に目新しさはありませんでしたが、走り始めた「生活バスや路線はどんな様子なのだろうか?」とある日乗ってみました。
乗客は始発のバス停では私一人、運転手さんと話しながらの出発でした。
「医療機関への通院と買い物のためのバスだからね」と運転手さん。
「土・日・祝日・年末年始は運休です。お盆もほとんど乗る人はいないね。
多い時には乗客が10人くらいになることもあるけど・・・」などと話しているうちに、もう一人利用者が乗ってこられました。
結局この便の利用者は2名だけ、約1時間走行して終点へ、途中で国道9号線と合流すると乗車はできない区間となり、しばらく走るとまた別の山筋にはいるというようなルートで益田市内の公共交通機関から置き去りにされていた地域を結んでゆきます。
人口も少なく家も点在し高齢者が多い地域ですので、とても採算が取れそうな路線ではありません。
「この家のあの人もこのバスを利用できるようになった、あっちの家の方もこのバスに乗るのだな、ここの家には自由に使える車があるよな」などと考えながら決して快適ではないバスに乗って考えていました。

1日2往復の路線が4路線、1日1往復の路線が2路線の生活バスですが、自分の車で動く人からすれば不便そうに見えても、近所の人の出かける用事に合わせての同乗で用を済ませていた人たちにはやっと他人に迷惑をかけないですむ足が確保されたのです。
生活バスに乗って
「便利になりましたよ」と答えられる方々の笑顔を見ていると、「採算が・・・」とか「利用者数が・・・」という論点ばかりでなく、どれだけの喜びを住んでいる住民に提供できるのかという行政サービスの物差しも必要なのではないかと考えてしまいました。

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