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心にうつりゆくそぞろごと
「心にうつりゆくそぞろごとを、そこはかとなく書きまぎらわしたるもの」を紹介しようと思い立ちました。
徒然草のごとく「日くらし硯に向かう」ほど暇ではありませんが、「心にうつりゆくよしなしごと」よいうか「そぞろごと」は、いくつも現れてきます。医学書を作るよりもこの方が人間味のある文になるのではないかと思います。
しばらくは「私の心にうつりゆくそぞろごと」とおつき合い下さい・・・

  第245段:今、エイズ教育?  

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最近のエイズ(AIDS)に関する話題はエイズの治療薬の特許料を優先するか、人道的立場からそれを無視して治療薬を安く供給するかですが、今回はこの話題とは異なるエイズの話をしてみましょう。

文部科学省指定の「エイズ教育推進地域事業」は3年間の計画で教育・広報活動を行っています。
益田市では事業の3年目を迎え、今年の世界エイズデイ(12月1日)を中心にした事業や、指定校になった小学校2校、中学校1校、高校1校、さらに地域の公民館活動などで様々な教育・広報活動が行われています。

今年2月に東京で「エイズ教育学会」が開催され、「大半の先進国ではエイズの感染者と死亡者数が減少しマスメディアや人々の関心が他に移ってしまった。
ところが日本の状況は死亡者数が減少しても感染者数は現在も増えている」と報告されました。
かつて「エイズの予防には教育が一番」と言われていたことを思い出し、益田市でのエイズ教育推進地域事業が決して時代遅れのものではなくタイムリーなものであるということを再認識しました。

益田地域では平成3年に産声を上げた島根県性教育連絡協議会という組織があります。
小中学校の教職員を中心にした研究会で、その活動は全国的にも高い評価を受けており、数年前に私が参加した熊本市での外来小児科学会のワークショップでも話題になったほどです。
現在、組織が若干縮小したため、本年度からは組織の建て直しを図る目的で子供達の逸脱行動としてのタバコ、アルコール、覚せい剤、エイズなども研究の対象に含めて考えようということになりました。

私もこの協議会に属している関係で、小中学校の性やエイズに関する研究授業などにも参加しています。
学年により自分の体のことを学ぶ場合や、他人を思いやる心を知る授業構成、ケガや病気で他人の血液に触れるかどうかを考えさせるなど、部外者の考えているエイズ教育とは随分異なっています。
エイズの教育は病気の理解や予防だけではなく周囲からの感染者に対する差別や偏見を理解し人権を学ぶ場でもあります。
授業は単に医学的知識の詰め込みではなく、さまざまな問題に的確な判断ができる力をはぐくむ内容になっており、現場の教職員の苦心がうかがえます。

「こんな地域でもエイズの話が必要なのか?」としばしば聞かれます。
「教えておけば逃れることができるのに、教えずに感染や偏見と戦わせる必要はありません」と答えています。
今年度で推進事業は終了しますが、性病エイズの終点は人類にはありません。
この活動が来年度以降も様々な形で根付くように努力したいと考えております。

2001年5月の山陰中央新報「いわみ談話室」から

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