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| 第256段:はしかを輸出する国・ニッポン |
はしか(麻疹)と聞いて懐かしい名前の病気だなあと思われる方も少なくないでしょう。
米国CDC(疾病管理センター)のレポートによれば、2000年に米国に入国した麻疹の患者は26例、その内、日本からの患者が7例で最も多く「日本は工業製品だけでなく麻疹も頻繁に輸出している」と批判された経緯があります。
人口2億8千万人の米国での麻疹の年間症例数は80例から90例ですが、人口が半分にも満たない1億3千万人ほどの日本では年間18万人から21万人の患者が発生していて、肺炎も4千8百人前後、重い後遺症を残す脳炎も50人を超えているのが現状です。
まさに桁違いの発生率です。
そして毎年80人以上の1歳前後の子どもたちが鬼籍に入る現実は先進国では考えられない状況なのです。
現在の保健分野では世界の潮流のひとつに、「予防可能な疾患」の「予防の徹底化」があります。
つまり世界保健機構(WHO)などでは肥満、喫煙などによるガン、心臓病、脳血管疾患およびワクチンによる予防可能な疾患が対象となり大々的なキャンペーンや予防活動をしています。
健康・長寿大国の日本がなぜかこの予防接種の面では世界のお荷物になっているのです。
1年間の人口10万人あたりの麻疹症例数が10を超えているのは南北アメリカ大陸には1カ国もありませんしヨーロッパではわずかにトルコとウクライナの2カ国だけです。
アジアに目を転じてみると、日本は中国、インド、パキスタン、インドネシア、バングラディシュよりも患者数が多く生活習慣病の対策は進んでいても、次の世代をになう子どもたちへの対策はお寒い限りということです。
麻疹ワクチンを2回接種するのはほとんどの国(156カ国)で常識化しており、現在の日本のように生涯で1回という国はアジア、アフリカを中心に世界で35カ国、先進国ではイタリアと日本だけです。
米国では州によって規則にいくらかの違いがありますが、予防接種をしていない子どもが保育園や幼稚園、小学校などに入ろうとしても園長や学校長が入園、入学を拒否しても良いことになっているようです。
どうしても子どもに予防接種を受けさせたくない親には、麻疹などの病気が流行した場合には「治療費や損害賠償などを予防接種しなかった子どもの親が支払う」という誓約書のような文書を提出させられるようです。
日本の麻疹対策は、昨年からわずかずつ改善の兆しが見え始めたところです。
日本の国全体での予防接種に対する取り組みが確立されていないことに加えて、小児科医を除く日本の医師には、『日本では麻疹が撲滅できていないという認識が低い』ことが対策を遅らせている原因のひとつにあげられています。
もちろん予防接種が危険だから接種を拒否している親や、自然に罹患して抵抗力を持たせた方が良いと考える大人もいますが、そのような人たちの割合は少なく、小児科医以外の医師の無関心が麻疹の撲滅の障害になっているのです。
最近出てきた提言では、子どもに予防接種を受ける機会を多くすることと、ワクチン接種の費用を無料にすることが解決の方向であると結論されています。
長い人類の歴史の中で人間の力でこの地球上から撲滅できた伝染病はたった一つ「天然痘」だけです。
天然痘の次に地球上から撲滅できそうな伝染病はポリオ(小児マヒ)です。
現在、南北アメリカ、ヨーロッパ、太平洋地域などは完全に撲滅され、2005年の地球上からの撲滅を目指して現在もアフリカや東アジアでも活動が続いています。
(もちろん日本を含む太平洋地域や南北アメリカ大陸、ヨーロッパなどでもまだワクチンの接種は続けられています。)
このポリオが完結すれば次のターゲットは多分「麻疹」でしょう。
エイズと異なり「予防可能な疾患」の「予防の徹底化」が必要と認められている病気のひとつです。
さまざまな国際比較で常に上位にランクされている日本ですが、こと麻疹に関しては発展途上国以下の成績です。
現在の日本で、年間80人以上の子どもが死んでゆく病気に対して、行政が何も対応しないということは許されるはずがありません。
しかし、ここ10年ほどの日本での麻疹ワクチンの接種率などを検討してみると、国際問題にまでなっている現実は広く国民には伝わっていないといわざるを得ません。
1歳のお誕生日のお祝いは、はしか(麻疹)の予防接種に連れて行ってあげることを肝に銘じてください。
東京ビルヂング「カルテの落書き」から