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| 第257段:減らない自殺 |
ここ数年、日本の自殺者が年間3万人を越えていると何度も報道されています。
平成15年中に自殺した人の数は警察庁の統計では34,427人で前年に比べて7.1%増加しています。
60歳以上の方が全体の33.5%、次いで50歳代が25.0%、40歳代が15.7%、30歳代が13.4%と続きます。
19歳以下の自殺は増えてはいますが、過去最高を示している程ではありません。
自殺は圧倒的に男性に多く全体の72.5%を占めます。
平成14年と平成15年を比較すると男性の自殺者の増加率は8.2%、女性の自殺者の増加率は4.4%ですから男性にはつらい数字です。
自殺の原因は様々な分析がされていますが、見落としてならないのは遺書のある自殺が全体の約30%ですので、残りの70%程の動機はわからないということです。
遺書のあった方の内訳では健康問題が37.5%、経済・生活問題が35.2%で、近年この経済・生活問題での自殺が増えているという統計が出ています。
地域的に見てみると自殺率の高い県は秋田、青森、岩手、島根、山形、新潟、宮崎、高知などであることが知られています。
世界的に見ると日本の自殺率は比較的高いほうで人口10万人に対して25から27です。
リトアニア、ロシア、エストニア、ラトビア、ハンガリーなどは35以上でかなり高率な国です。
一方アメリカ、イギリス、イタリア、オランダ、スペインなどは15以下で比較的自殺の少ない国です。
様々な研究から1人の自殺者がいるということは10倍の未遂者がいるといわれています。3万4千人余りが自殺している現実からは34万人余りの自殺未遂者がいると考えて対策を立てなければならないということです。
(交通事故死が年間1万人程度ですからその3倍以上の命が失われているのです。交通事故のキャンペーンと異なり自殺予防のキャンペーンはまったくといってよいほどされていないのが現状です。)
自殺者の自殺前の状況の調べてみると元気がなく、食欲が減退し、睡眠不足を訴えたり、めまいや肩こり、性欲減退などの様々な症状が現れていたようです。
これらの症状はうつ病や軽症うつ病の症状の一部でもあるため受診すれば改善が期待できるのですが、一つ一つの症状が耐えられないほどの苦しみではないために、しばしば「自律神経失調症だから大丈夫」とか「ストレス発散で遊ぼう」あるいは「寝酒を飲んでごまかそう」などという考えから治療が遅れてしまっていることが少なくありません。
うつ病というと大変な精神病という印象があるでしょうが、生涯有病率という計算をしてみると女性は4人に1人〜10人に1人ぐらいの人が罹ります。
つまり程度の軽い重いは別にしてうつ病やうつ状態になるわけです。
男性でも8人に1人〜20人に1人ぐらいは不調になるわけです。
そして適切な受診や支援がないために命を失ってしまうところまで進んでしまうのです。
数年前の調査では日本人は意外と医師から処方される薬を飲むのが嫌いなようで、たとえば不眠のときの睡眠薬の使用は国際比較をしてみてもかなり低率で、不眠を解消するためにアルコールを飲む率が極めて高いという結果がでていました。
アルコールへの依存はうつ病をさらに悪化させる傾向が強く、酒でストレスは解消されないと考えるほうが適切です。
うつ病と自殺には関連性があると指摘されていて自殺予防のためには軽症のときのうつ病やうつ状態で受診をして適切な対応をしなければなりません。
「おっくうさ」や「落ち込み」が2週間以上続いたり、「自分はだめな人間だ、生きている価値がない」と考えるようであればすぐに受診をしなければなりません。
はげましたり元気づけたりすることがかえって症状を悪化させている場合もあります。
うつ病の患者さんは「几帳面でまじめな性格」の人が多いようで、そのまじめさがストレスをため込みやすく神経をすり減らしてしまうのです。
「たかが心の問題だ、自分がしっかりしていなければ」と頑張りすぎてしまうことが身も心も疲れさせてしまうようですね。
普段と様子が違うように見えたらそれとなく受診を勧めてみてください。
心や体の不調の時には気軽に医師と相談することが解決の糸口なのです。
東京ビルヂング「カルテの落書き」から