そぞろごとトップ 検索 管理用 松本医院Home

心にうつりゆくそぞろごと
「心にうつりゆくそぞろごとを、そこはかとなく書きまぎらわしたるもの」を紹介しようと思い立ちました。
徒然草のごとく「日くらし硯に向かう」ほど暇ではありませんが、「心にうつりゆくよしなしごと」よいうか「そぞろごと」は、いくつも現れてきます。医学書を作るよりもこの方が人間味のある文になるのではないかと思います。
しばらくは「私の心にうつりゆくそぞろごと」とおつき合い下さい・・・

  第259段:体によい食べ物  

[前頁]  [次頁]

「体によい食べ物」というと健康志向の世の中ですので注目度が相変わらず高いですね。
医食同源、薬膳などといわれると食べ物には薬の効果がありいいものを食べれば健康になると信じておられる方も少なくないようです。
私の診療所の栄養士と話していたら「食べ物で体に悪いものはありませんよ。
食べ物が悪いのではなく、人間がその食べる適切量を守らないからです。」と答えてくれました。

テレビで「たまねぎ」が体によいと話していたので早速それを食べていますという患者さんに、どの有効成分を摂取するのかを聞き有効成分の分析結果とあわせるとなんと「たまねぎ」50kgで期待の有効値になるという結果でした。

毎日50kgも食べられるわけがないのにもかかわらず、本人は少しずつでも食べれば効果が出ると期待しているのです。
有効成分が入っているということと効果をでる量との関係が理解できていないわけです。
このような現象すなわち、食べ物や栄養が、健康や病気に与える影響を過大に信じたり評価したりすることを「フードファディズムFood Faddism」といいます。

赤ワインのポリフェノールには抗酸化作用があるから体によいと聞きアルコールが飲めない女性が葡萄ならいいのだろうと解釈して干し葡萄を大量に食べ糖尿病を悪化させて受診されたことがありました。
酢が体によいという迷信は非常に強く酢大豆、酢卵などなど様々な摂取方法がありますがすべて科学的な根拠には?がついています。

その昔、「高血圧の治療で塩分を制限させるために副食の味をピリッとさせるために酢を使うと良いですよ」とか、「酢を使用することで塩分を少なくすることができますよ」と指導したことが結果的に酢は体によいと誤解を生んだのかもしれません。

最近の研究では食塩を減らしても血圧が下がる高血圧の患者さんは3人に1人程度で、減塩で直接的に血圧が下がる人が意外に少ないことがわかっています。
高血圧の話は別の機会に譲りますが、素人療法では危なっかしいというのが本音です。

栄養士の話に戻ると、どの食品にも人によってよい効果と悪い効果がありますし、成分の割合で変わることもあるそうです。
果物はビタミンを摂取するにはよい食品の一つですが、最近の果物は糖度が高く多すぎる糖分がビタミンの効果を上回る悪影響を与えます。
果物の甘味は砂糖の甘味とは異なる果糖が多いので食べ過ぎに注意して欲しいと話しています。
もともと人間はでんぷんに多いグルコースという名前の種類の糖分で体が調子よく動くようにできていました。
自然界の果物の中に多い果糖(フルクトースと呼びます。)は人間の体に入ることがまれでしたので上手にフルクトースを処理しなくても体調が乱されることがなかったのです。
しかし現代ではフルクトースのとりすぎで体調を崩している場合が少なくありません。

飢餓に耐えることが長寿の秘訣であった人類は食べ過ぎを防ぐ遺伝子を持ち合わせませんでした。
地球に人類が出現してからほんの数十年前までの長い間、飢餓に耐える遺伝子を持った人が生き残り、過食でなければ生きていけない遺伝子を持つ人間は子孫を残すことができませんでした。
食べすぎで長生きする遺伝子には5年や10年では絶対に変化しませんので現代人はほとんど飢えには強いが食べすぎには弱い人間ばかりです。
このため食べ過ぎ、運動不足による糖尿病が増えているのです。

おいしいものを食べ終えても、人間の洞察力はいつ飢餓が自分を襲うかもしれないという不安から新たな食事要求に簡単に答えて食べ過ぎてしまうわけです。
他の動物と異なり食べたカロリーを使い切る前に飢餓に備えて次を食べることができるので太り始めてそのための弊害に苦しんでいるのです。

ご飯はでんぷんが多くグルコースを含んでいますが、たんぱく質も意外と含んでいます。
やせることを目的でご飯を食べないでいるとたんぱく質不足の栄養失調になりかねません。
肉にはたんぱく質が多く含まれているのは事実ですが、油脂類と一緒に摂取することが多く結果的にはカロリーオーバーとなってしまいます。

どの食品も体によいことは確かです。
しかし摂りすぎはいけない。
そして一つのものを集中的にあるいは長期にわたって連続的に食べないことがポイントです。
ある意味ではテレビの番組でいいというものを毎日追っかけて食べていると結果的にたくさんの種類の食べ物をとっかえひっかえ食べているので健康になっているのかもしれないと考えるようになりました。
そう考えるとあの番組もすべて否定するわけにも・・・・・

食品の表示も当てにならないし、テレビの内容も信用できないし、添加物の入っているものは怖そうだし、自分で野菜を作ろうとしても種や苗が遺伝子組み替えだったりすると・・・・健康つくりは大変ですね。

東京ビルヂング「カルテの落書き」から

[前頁]  [次頁]


- Column HTML -