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心にうつりゆくそぞろごと
「心にうつりゆくそぞろごとを、そこはかとなく書きまぎらわしたるもの」を紹介しようと思い立ちました。
徒然草のごとく「日くらし硯に向かう」ほど暇ではありませんが、「心にうつりゆくよしなしごと」よいうか「そぞろごと」は、いくつも現れてきます。医学書を作るよりもこの方が人間味のある文になるのではないかと思います。
しばらくは「私の心にうつりゆくそぞろごと」とおつき合い下さい・・・

  第260段:揺れ動く基準値  

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健康診断や人間ドックの結果を受け取ると、そこに書かれた様々な検査の数値が気になりますね。
基準値(最近は正常値と書くことが少なくなりました。)の範囲内にあるかどうかが気になりますね。この基準値も時々変更されていることに気づかれた方もあると思います。

数年前から糖尿病の指標の一つである血糖値は、早朝空腹時*の血糖値が140以上であると糖尿病といわれていたのが、126以上が糖尿病ということに変更になりました。
これは様々な研究の結果140以上で糖尿病と診断して治療を開始するよりも、126以上を糖尿病として治療した方が合併症の発症が少なくなるということがわかったからでした。

もちろんこの程度の血糖値では自覚症状は何もなく、尿糖の試験紙でも色が変化することも少ないため自分が糖尿病と指摘されても信じることが出来ない人が多いのも事実です。

糖尿病と聞くと喉が乾いて水を沢山飲んだり、甘いものを沢山食べる人や、暴飲暴食を繰り返す人というイメージが多いのですが、現実は全く異なります。
65歳以上の日本人では「2人に1人が糖尿病あるいは糖尿病の可能性がありそうな人である」という調査結果もありますから、他人事ではないというのが実情です。

高血圧も以前は上の血圧といわれる収縮期血圧が160以上または下の血圧といわれる拡張期血圧が65以上の血圧が片方でも認められれば高血圧としていましたが、最近では収縮期血圧を130未満、拡張期血圧を85未満にそれぞれ保つようにという勧告が出ています。

推奨すべき血圧の値は収縮期が120未満、拡張期が80未満となっています。
「血圧は低ければ低いほど良い」というのがここ数年の考え方で、立ちくらみなどの低血圧症状が出現しなければ極力下げた方が良いとの考えが主流になってしまいました。

かなり以前から血圧を下げすぎると寿命に影響するのではないかと医師の間でも考えられていましたが、そのような仮説を支持する研究は現れてきません。
血圧を下げる薬も最近は非常に安全で副作用の少ないものが現れてきました。
以前から使用されていた血圧を下げる薬(降圧剤)は効果も不充分でしたが、副作用も比較的多く思いきって血圧を下げることが難しかったのですが、いまではそのような心配も不用となりました。
ほとんどの降圧剤は朝1回か、朝夕2回の服用で済むようになりました。

コレステロールは2001年になり日本人を対象にした7万人の研究調査から総コレステロールを220未満で管理するという考え方が少し緩められて、240未満で管理するような方法が提案されています。
しかし糖尿病を合併している人やタバコをを吸っている人はより厳しい管理を求められていますので、1人1人の年齢や身体の条件により管理基準値が変動するということになったわけです。

10数年前まではコレステロールを下げるといわれる薬はあっても、日本人に使用してみると意外と効き目が悪いという薬がほとんどでしたが、その後、安全で日本人でも効き目の良い薬が続々と登場しましたが、薬の飲み合わせで副作用が出やすくなることもわかり医師や薬剤師と良く相談する必要があることがわかりました。
コレステロールに関しては魚介類にはコレステロールの含有率の高いものもありますが、食べても実際には悪玉コレステロールが増えにくいことがわかってきました。
動物の肉も赤身はコレステロールが意外に少なくレバーやホルモンなどの臓物を食べると悪玉コレステロールが増加してくることが明らかになっています。

このように検査の基準値を変更するということは、多くの患者さんの長年の治療成績を参考にして研究してみると必要以上に厳しい生活を要求しないでもよかったり、今までよりも厳しい管理をしなければ病気を引き起こしてしまうなどということが判明したことによるものです。

生活様式や食べ物が変わることで病気の起こる割合も変わります。
多くの研究者は最小の努力で最善の効果が現れるような治療法や管理基準を捜し求めていますのでやがてそれらが実を結ぶ日が来るでしょう。
しかし、その日が来る前にもう後戻りできないほど体を傷つけていては新しい治療法も役に立ちません。
タバコを止め、アルコールは休肝日を週に2日程度設定し、散歩療法をとり入れるなどをして生活習慣の改善をすることで元気な状態を維持することが出来るのです。
今からオリンピックに出るためのトレーニングをするのではありません。
健康を維持するための運動や栄養はスポーツ選手とは全く異なるということ理解していてください。

*早朝空腹時とは夕食を食べた後、通常の睡眠をとり10時間以上14時間絶飲食をした状態で早朝に採血したときの血液で、朝目覚めたあとも運動や散歩をしない状態でベッド上で静かに横になっているというのが約束なのです。

東京ビルヂング「カルテの落書き」から

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