/そぞろごとトップ /検索 /管理用 | 松本医院Home |
|
第262段:心も風邪をひく |
「ストレスがあって、毎日、毎日が辛いのです。」
「ストレスさえなくなったら、こんなに幸せなことはないのですが」
と何人もの患者さんが診察室で話されます。
医者の私は「ストレスは人間にとってプラスのストレスとマイナスのストレスがあるので、『ストレスがあるからこそ生きていける』のにそれをなくしたいとは?」と考え込んでしまいます。
あれが欲しい、旅行に行きたい、金を稼ごう、元気で生活しようというのも立派なストレスです。
仕事や交渉を成功させようとするのもストレスです。
ストレスなしでは生きてゆけません。
ストレスを乗り越えて成功することが最大のストレス解消ですが、人間の欲望は限りなく、成功してストレスを解消すると、さらにその上の成功を求めて次々にストレスを増大させてゆきます。
しかし、ほとんどの人間は目の前にある様々なストレスが解決でき、乗り越えられているときには自分の目標や欲望がプラスのストレスだとは気付いていません。
自分の予測どおりにゆかなくなった場合や、思わぬ状況になったときにマイナスのストレスを大きく感じてしまうのです。
そして、つまずくとストレスを認識するのです。
ストレスで成功していた人がストレスで失敗にむかい始めたのです。
プラスのストレスの進む方向が少し変わっただけなのですが、ストレス(マイナス方向のストレス)だと認識し始めると、どんどん自分に不都合な方向にむかい出してしまうわけです。
精神科や心療内科などの専門の医師でなくても、いつものかかりつけの医師などと相談してトランキライザー(精神安定剤という名前は好きではありません。
英語のtranquilizerという言葉には安定させるという意味は含まれておらず、「静める」とか「安らぐ」という意味です。)などを処方してもらうと意外と早く立ち直ることができます。
ちょっと仕事のし過ぎで体調を崩して風邪を引いたり、おなかの調子が崩れることが時々ありますね、同じように心にも疲れがたまったりすれば「心が風邪をひいた」と考えたらどうでしょう。
2・3日トランキライザーを飲んで、ゆっくり休んでみたらよくなりますよ。
お酒やカラオケ、スポーツなどでストレス解消という方法もありますが、意外にもストレス解消に出かけた場所で新たな失敗をして逆に悪化させ、不適切なストレス解消法でストレスを溜め込んでいる場合もあります。
そして結果的には医師を受診する暇もなく大きなマイナスのストレスの渦に巻き込まれてくると、専門家に相談しないとなかなか回復できないことも稀ではありません。
「風邪は万病の元」といいますが、心の風邪も同じです。
寝つきが悪い、朝起きても疲れが残っているなどという症状が心の風邪の初期症状です。
マイナスのストレスを感じ始めたら医師と相談することが大切です。
昨年の世界10ヶ国の調査でも日本人は他の国に比較して不眠症の解決にアルコールに頼る人が非常に多いことが判明しています。医師を受診する割合や、睡眠薬の使用が極端に少ないことも同じ調査で指摘されています。
ストレスには人により様々な感じ方があります。
自分が受けるストレスでは配偶者の死や分かれ、家族の死や分かれが大きなストレスです。
ホームズらによれば結婚、退職、失業、夫婦の和解、妊娠、性生活の困難なども決して無視のできない強さのストレスです。
それに加えて自分の死というのもかなりのストレスではないかと私は考えています。
ガリバー旅行記の中にラグナグという国の話があります。
彼はその国のある地域には不死の人間の住んでいるという話を聞きます。
不死の人間は生き続けることに希望もなく、絶対に死ねないという前途を悲観し、周りで人々が次々と生まれては死んでいくことに深い嫉妬をしている様子を見て自分の持つ不老不死の願望のむなしさに気付きます。
漫画家・手塚治虫さんの作品「火の鳥」の中でも不老不死の霊鳥である火の鳥の血を飲ませて不死人間に変えてしまうと、その少年は自殺もできないことに気付いて嘆き悲しみます。
そして人類が滅亡した後も生き続け「この先わしは何を期待して生きればいいのだ」と叫んでいます。(「健康病」上杉正幸著、洋泉社から一部引用)
様々なストレスはプラスになることもありマイナスになることもあります。
たとえ死というマイナスのストレスであっても考え方によればプラスに転じることもできるということです。
心が風邪をひき万病の元になる前に医師と相談してみましょう。
「風邪」のときなら意外と早く治せますよ。
東京ビルヂング「カルテの落書き」から