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心にうつりゆくそぞろごと
「心にうつりゆくそぞろごとを、そこはかとなく書きまぎらわしたるもの」を紹介しようと思い立ちました。
徒然草のごとく「日くらし硯に向かう」ほど暇ではありませんが、「心にうつりゆくよしなしごと」よいうか「そぞろごと」は、いくつも現れてきます。医学書を作るよりもこの方が人間味のある文になるのではないかと思います。
しばらくは「私の心にうつりゆくそぞろごと」とおつき合い下さい・・・

  第266段:花粉症  

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インフルエンザの流行が終わらないうちに、2月になるとスギ花粉症の話題が出てきます。
このスギ花粉症は50年前にはその病気の存在すら認められていませんでしたから正に現代病として騒がれています。
スギの花粉に過敏な方が「くしゃみ」。
「はなみず」、「なみだ」などで苦しみます。

最近はスギの花粉が終わった頃に飛び始めるヒノキ花粉症も存在することがわかり、1人で両方に過敏な方もあり苦しみを倍加させています。
比較的若年者に多く高齢者には少ないのですが、完全に治るという確証がなく様々な治療が試みられていますが、怪しげな治療法も跋扈(ばっこ)していて真偽の程を確かめるのも我々の仕事になり忙しさにてんてこ舞いとなります。

最近ではこのスギ花粉症は人間だけでなくニホンザルでも存在していることがわかり混乱に拍車を掛けています。
原因についても百家争鳴の感があり大気汚染や地球の温暖化なども出てくると、人間の診療をしている医者だけで解決できる問題ではなくなった感じさえあります。

今回は様々な原因について述べてみましょう。

スギ花粉症はスギ花粉大量に飛散している地域で認識が始まりました。
ところがスギ花粉が多い地域の中でも患者さんの多いところに花粉が大量に飛んでいるかというと必ずしも多くない。
国道沿いの家に住んでいる人と国道から離れている人たちとを比べると国道沿いの人のほうに患者さんは多かったという事実が確認され詳しく検査をすると、どうもディーゼルエンジンから排気される微粒子とスギ花粉の相互作用ではないかと疑いを持たれ始めました。
しかしどちらが主因かと問われればやはりスギ花粉です。

大量のスギ花粉が飛ぶようになった理由には杉の植林が盛んだった時代があり(桧も同様に植林を推進した時代がありました。大量の松が松くい虫にやられたことも原因の一つです。)植林された杉が花粉を大量に飛ばす年数になったという考えや、山林業の衰退で杉の枝打ちや間伐が少なく必要以上に花粉をつけ飛散量をふやしたという説もあります。

また生活環境のアスファルトやコンクリートが多くなったことで、飛散したスギ花粉が再度舞い上がって刺激を繰り返すという点も指摘されています。
昔ながらの草や土が多い環境なら地面に落ちたスギ花粉が再度舞い上がる率が低かったという理由です。

もう一つ杉の花粉が増えた原因で注目すべき説があります。
杉の生育環境が悪化したため杉の種の保存が困難と多くの杉が判断し大量のスギ花粉を飛散させ始めたという説です。
杉は暖かい沖縄には自生していない木ですから元来比較的寒いところに分布しています。

地球の温暖化のために杉の生育に適した温度よりも高くなったために、現在の杉の木は仕方がないとしても自分の子孫は生き残らせるために大量に花粉を飛散させているというわけです。
また前述した間伐や枝打ちの減少で杉の木同士の密度が高すぎて不適当な生育環境と杉が判断すれば新天地に子孫を残そうと更に花粉の量を増やす可能性もあります。

人間のほうが変わったのではないかと考えられる向きもあるかもしれませんが、人間の遺伝子は20年、30年とか100年、200年では簡単に変わりません。
親子や孫の間でいとも簡単に遺伝子が変わったりすることはありえないのです。
アレルギー疾患が先進国に多いことから寄生虫がいなくなったからアレルギー性疾患が増えたという学説もありましたが、これも否定的です。

様々な化学薬品などの環境ホルモンも疑いはもたれていますが、証拠をつかむまでには至っていません。

混乱している治療のほうですが、とりあえずの症状を抑える薬はそろっています。
しかし根本療法はまだ見つかっていません。
意外なことにこの花粉症には古くから存在する漢方薬が効果的です。
眠気や口が渇くというような副作用もほとんどなく安心して使用ができます。
昔からあった薬が花粉症にも効くということに気付いただけのことです。

人間側の対策に加えて杉のほうにも対策を加えています。
杉の品種改良をしている研究機関ではこの杉の花粉が少ない品種を交配して成功したというニュースを昨年読みました。
効果が出てくるのはその品種改良された杉を植林して20年から30年後です。
山は自分で植えた木を育てて自分が売るのではなく、3代かけて木を育てる仕事だという話を子供のころに聞いたことを思い出しました。
ゆったりとした時間の流れで動いている山の木々が私たちを笑っているかもしれませんね。

東京ビルヂング「カルテの落書き」から

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