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心にうつりゆくそぞろごと
「心にうつりゆくそぞろごとを、そこはかとなく書きまぎらわしたるもの」を紹介しようと思い立ちました。
徒然草のごとく「日くらし硯に向かう」ほど暇ではありませんが、「心にうつりゆくよしなしごと」よいうか「そぞろごと」は、いくつも現れてきます。医学書を作るよりもこの方が人間味のある文になるのではないかと思います。
しばらくは「私の心にうつりゆくそぞろごと」とおつき合い下さい・・・

  第268段:睡眠薬のやめかた  

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「先生、この薬をいつまで飲むの?」
「一生この薬から別れることはできないの?」
などと患者さんは治療開始から数週間、あるいは数ヶ月すると必ず質問されます。

一般的に自覚症状のあった病気ではその症状が消えるとすぐにこの質問が出てきますが、高血圧症や高コレステロール血症などの病気はある程度期間が経過してからが多いのです、病気が軽度の場合は数ヶ月ぐらいすると薬の飲み忘れがあったり、予約の日に受診ができなかったりで、つい医療機関に足が遠のいてしまい、次の年の人間ドックや健康診断で「受診の必要あり」とか「要精密検査」などの健診結果を頂戴して頭を掻きながら再度受診という経験の方も少なくないはずです。

生活習慣病というグループの高血圧や高コレステロール血症、糖尿病などの病気では、薬を止めるかどうかの判断は医師以外にはできないのだということを確認していただきたいのです。
今回は生活習慣病から離れて睡眠薬や精神安定剤の話で「いつまで飲むの?」あるいは「この薬とお別れする日は?」の話をしましょう。

睡眠薬や睡眠導入剤あるいは精神安定剤と呼ばれる薬を飲みはじめると
「癖になるからあまり飲まないほうがいいでしょ?」
「なるべく少なくなるように半分だけ飲んでいます。」
などとお話される方がほとんどですね。
一般に医師が処方している「いわゆる眠り薬」は巷で噂されるような数十年前の薬と異なり習慣性も依存性も格段に少なくなっていますから、正しい知識で対処されることをお勧めします。

睡眠薬には精神の緊張を緩和する作用と共に筋肉の緊張をほぐす作用もあり朝起きても「なんとなく、力が入らずダラッとした感じがする」などと訴えられる方もありますね。
ところがここ1・2年出てきた新しい睡眠導入薬ではこの筋肉の緊張を緩和する作用が少ないためになんとなく薬の効果が残っているような印象が少なくなったものもあります。

しかし、不眠の原因が精神的な不安などにある人には若干効きにくい傾向があます。
逆に考えれば眠れない理由や患者さんの状況を詳しく聞くことで適切な薬を選択できるようになり、つまらない副作用で苦しむ理由が減ったわけです。
いわゆる眠り薬を充分に効かせ、副作用で苦しまないための方法は、

1.
必ず起きる予定の時間の8時間以上前に飲むこと。
実はこれが守られていないのです。
夜の12時を過ぎても眠れない、午前1時になっても2時になっても眠れない、そこで睡眠薬を一度に倍量の2錠飲んで寝る。
朝の7時に起こされてもまだ薬が残っているためにふらふらする。
「あの睡眠薬は強くて恐ろしい薬だ!」となってしまうわけです。
そもそも睡眠薬をもらうほどの不眠なのに飲まないで様子をみようとする不可解な行動の裏には睡眠薬に対する誤解があるからです。
しっかり眠るために飲むのですから8時間以上は寝ることを前提にして睡眠薬を飲みましょう。
「癖になっては困るので半分にしましたが今度は眠れませんどうしましょう?」といわれる方へ、薬は厳密な研究の結果平均的な服用量を決めています。

2.
薬を減らすときには飲む量を減らすのではなく、回数を減らします。
もちろん主治医との相談の上での話ですが、一晩薬を休んでみる方法が薬の必要性を判断するには好都合のようです。
薬を止めてもよさそうな時期になったらまず一晩薬を休んでみてそれで眠れたら1日おきにしてという風に飲む間隔を空けてみます。
ダメならまた毎晩飲めばよいのです。
今まで薬で満足するほど眠っているのですから一晩ぐらい眠れなくても体には問題ないのですが、その一晩だけ薬を休んでみるという行動に移れないのが不眠症の悲しさです。
習慣性や依存性は1ヶ月ぐらいで起こることは極めてまれです。
薬の止めどころは医師によっては飲むのを忘れる頃まで続けると説明されることもあります。
多くの日本人は症状がなくなると自然に薬を飲むのを忘れてしまいます。
その頃が薬の止めどきなのです。
気がつけば2週間分の睡眠薬が3週間かかってなくなった、とか仕事が忙しくて気がついたら睡眠薬を飲まないで寝ていたというような経験があればそろそろ卒業?
と考えるわけです。
なるべく飲まないほうがよいと考えるよりも、眠れるようになったら自然に薬を忘れると考える気持ちの余裕が出ると治療の終点が見えてきた感じがします。

過去の睡眠薬のトラブルは今も患者さんの心にしっかりと焼きつき、その怖さが語り継がれているようですね。
しかし医薬の進歩は目を見張るものがあり睡眠の様々なメカニズムが発見されそれに対応できる薬も増えてきました。
眠れない原因にも様々なものがあり、いわゆる眠り薬だけで治療をしているわけではありません。
医師と不眠についてもう一度相談しなおしてみるといい眠りが訪れるようになるかもしれませんね。

東京ビルヂング「カルテの落書き」から

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