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心にうつりゆくそぞろごと
「心にうつりゆくそぞろごとを、そこはかとなく書きまぎらわしたるもの」を紹介しようと思い立ちました。
徒然草のごとく「日くらし硯に向かう」ほど暇ではありませんが、「心にうつりゆくよしなしごと」よいうか「そぞろごと」は、いくつも現れてきます。医学書を作るよりもこの方が人間味のある文になるのではないかと思います。
しばらくは「私の心にうつりゆくそぞろごと」とおつき合い下さい・・・

  第269段:男と女と睡眠事情  

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男と女は違って当たり前、でも意外なところにも差があります。

肥り始めの年代にも差があります。
若い20才代では男女共にスマートですが、30才代になると男性の方が肥っている人の割合が増え始め、40才代、50才代と一定の速度で肥満者の割合が増えます。

ところが女性は40才代の後半からそれまでスマートだったのに肥満者が急激に増え始めます。
これは女性ホルモンに食欲を抑制させる作用があるために、女性ホルモンの分泌が活発なときにはたくさん食べないので痩せているのですが、閉経期が訪れると女性ホルモンが少なくなり食欲抑制の効果が消失するため急激に肥り出すと考えられています。

男と女は体調を整える薬にも差があります。
たとえば腸の働きでは、男性は比較的下痢する人が多く、女性には便秘の人が多いのです。
このため男性には整腸剤のなかでも下痢を止める作用の薬が多く使われます。
便秘の薬を求めて受診される方は圧倒的に女性が多いですね。
雑誌の広告を見ても女性誌にはダイエットの案内と便秘の薬やさまざまな便秘解消法の広告が多いことに気付かれるでしょう。
便秘や下痢を繰り返す過敏性腸症候群といわれる病気でも男性は下痢が主体の患者さんが多く、女性は便秘が主体の患者さんが多いのです。
同じ人間だから体調などは男性も女性も似たものだとお考えでしょうが、大違いです。
おなかの調子以外にも男女で薬の要求度の異なる場合が意外とあります。

咳止めの漢方薬には女性には効果がいいのですが、男性には余り効果がないといわれる咳止めの薬があります。
実際に試してみると男性に使うと効き目は怪しく、便秘になることもあり好ましくありません、しかし、女性に処方するとこんなに良く効く薬があるのですかと喜ばれます。
漢方薬ではありませんが、高血圧症に用いる降圧剤に薬の中に咳が出やすくなる薬もあります。
これも私の印象では男性よりも女性のほうに咳が出る割合が高いようです。
そしてその咳には女性に良く効く咳止めの漢方薬が著効を示すことがわかっています。

次は睡眠薬、睡眠薬を要求する性は男性よりもやはり女性が多いといわれています。
これは世界的な傾向で日本だけの傾向ではありません。
晩酌などの習慣から「男性は酒で寝てしまうから睡眠薬を使用する率が少ないのではないか」と考えるのは誤りです。
理由は定かではありませんが、とにかく女性が不眠症になる割合が高いのです。

昨年発表された国際睡眠疫学調査では日本人は不眠を感じている人が21%で調査の平均の25%よりは少なかったようです。
睡眠薬を飲む人の割合は日本では15%ほどですが、ポルトガル、スペイン、ベルギーなどヨーロッパでは40%以上の人が睡眠薬を利用していました。
医師を受診するという行動もヨーロッパでは約半数ですが、日本では8%とその調査の中では最低でした。
睡眠薬の代わりに酒を飲むという習慣は日本が一番多くて約30%でした。
(医師として自分たちや薬が信用されていないのだなあと反省した次第です。)
ところが不眠の原因の一つである興奮剤のカフェインを含むコーヒーやお茶を不眠の人が減らしているかどうかも同時に調べていました。
答えは私の想像どおり、不眠解消の基本的な簡単な努力をしている日本人は10%ほどでこれまた最低でした。

日本人は睡眠に対して偏見を持ち、治療方法にも本当に有効な方法があるにもかかわらず、それを実行せず安易な方向にばかり走っているという姿が見えてきました。
不眠に対しての日本人の行動は諸外国と比べると明らかに異なる文化をもっているようです。
診療室の中でも睡眠薬を欲しがるのは女性が多く、そしてその薬についての不安を訴えるのもやはり女性です。
「目が醒めるのは眠りがたりたからですよ」とお話しても納得していただけません。「眠りがたりないときには居眠り運転するのをご存知でしょ?」と話しても自分の不眠は違うといい張るのも不眠の人の特徴です。
眠ろう眠ろうと必死に考えて興奮しているために『眠らないように努力しておられる不眠症』の人が多いのです。
とはいえ、『女性』、『60歳以上の人』、『健康上の問題を抱えた人』、『うつ病』、『離婚または配偶者と死別した人』などは不眠に陥りやすい傾向があります。

こわがらずに受診して不眠について相談して納得できれば気持ちのよい目覚めが待っています。
お酒には寝覚めを悪くする効果があることをご存知でしたか?

東京ビルヂング「カルテの落書き」から

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