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第270段:ばら色の未来を |
問診とひと通りの診察を終えて、私がしゃべりだしました。「やっぱり疲労蓄積ですね。朝練習をして授業を受けて、放課後の課外活動をして、12時間前後も学校や運動場などの敷地内に滞在しているし、休みの日も朝から晩まで練習や試合でしょ。労働者だったら時間外勤務が1ヶ月に100時間を越えたら、医師の面接を受けて時間外労働の短縮を求めてもらえるのですが、授業と課外活動じゃ一貫性がないから無理ですか?」困った様子の親子が私の目の前に並んでいます。「睡眠時間も6時間程度で、授業中もぼんやりしているみたいだったら何のための学校生活なの?」と畳み掛けてしまいました。
高校生の健康調査票を点検してみると「疲れている」「睡眠不足」というような項目には「しばしば」に印がついていることが多いのです。調査票にたくさんの訴えがある子どもにはケガや病気が蓄積していることも目立ちます。公共交通機関のサービスに乏しい地域では長距離の自転車通学ですから疲労は倍化します。家族の送迎にたよっている生徒も少なくありません。
睡眠時間を確保できないまま勉強や課外活動をこなして、1日24時間のうち食事や入浴などの生理的時間を差し引くと、どれだけの時間が残っているのだろうかと考え込んでしまいます。
平成14年2月に厚生労働省労働基準局長から「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」が通達されてから既に3年余り、月100時間以上の時間外労働をしているか、あるいは2〜6ヶ月間の1ヶ月平均の時間外労働時間が80時間を越える場合には医師(産業医)の面接による保健指導を受け適切な事後措置をとるようになっています。
私自身も益田地域での産業医活動や地域産業保健センター活動の中で、通達の内容に到達した長時間の時間外労働者の面接をしていますので、その疲労度が良くわかります。
時間外労働が多くなると、たまの休みの日にも気分転換に出かける気も起こらなくなり、ただひたすら休みたいというような気分になる人も少なくありません。元気なうちには運動やさまざまなレクレーションにも出かけられるのですが、時間外労働が続くと、「とにかく休みたい」の気持ちだけになってしまうようです。
高校生や中学生の場合は勉強と課外の活動だから、労働者のように同じ内容の負荷ではないのだから、余り問題ないのではと感じられる方もあるかもしれませんが、実態を調査してみると子供たちにかかっているプレッシャーは長時間の時間外労働者と大差はないようです。
1日2時間半余りを課外活動にまわしていれば30日で80時間を越えますから課外活動を時間外労働と考えるとあっという間にレッドカードということになります。前述の局長通達にはイエローカードとして時間外労働が1ヶ月に45時間を越えたところで「健康管理について産業医等による助言と指導を受ける・・・」となっています。
疲れた中高生が疲れた大人を見ていてばら色の未来は想像するなんて考えられません。ばら色の未来を想像できるような状況を作っていくのは誰の仕事なのでしょうか?