そぞろごとトップ 検索 管理用 松本医院Home

心にうつりゆくそぞろごと
「心にうつりゆくそぞろごとを、そこはかとなく書きまぎらわしたるもの」を紹介しようと思い立ちました。
徒然草のごとく「日くらし硯に向かう」ほど暇ではありませんが、「心にうつりゆくよしなしごと」よいうか「そぞろごと」は、いくつも現れてきます。医学書を作るよりもこの方が人間味のある文になるのではないかと思います。
しばらくは「私の心にうつりゆくそぞろごと」とおつき合い下さい・・・

  第278段:教えることは教わること  

[前頁]  [次頁]

「アレー?いつもと違うよ」とそっと診察室をのぞき込んだ子どもの声がします。
5月末から始まった島根大学医学部の地域医療実習の学生が私の診察室の中にいたからです。
一人の学生が3週間、大学病院以外の地域の病院や診療所などの医療機関で、大学では味わえないような経験をしています。
私の診療所でも1週間と、2週間コースを受け入れました。

この実習は、大学病院では経験できない様々な医療の側面を学習し、医療全体を見渡すことのできる広い視点を養い、医療の本質に対する理解を深めることである、とされています。
そして、この実習にはもう一つの側面があり、へき地等で勤務する医師を育成したいという希望があるようです。

以前から指摘されていた医師不足は、ここ2・3年拍車をかけるような法律の改正があり、石見地方だけでなく全国的な医師不足をつくり出しました。
このため、アメリカで医師不足の地域で実際に行われている実習教育をモデルに、島根大学医学部が日本でも先駆的な取り組みとして始めたわけです。

田舎の私の小さな診療所では子どもから老人まで受診される年齢層も広く、単純に内科や小児科の病気だけではありません。
もちろん専門的な診断や治療が必要な場合は専門医にお願いしますが、症状が落ち着いたり、軽症の場合には私のところで何とか対応しなければなりません。
「医師が一人の総合病院」になるわけです。
こんなところが私の診療所での実習のポイントとなります。

狭い診察室の中で私と患者さんとのやり取りを聞き、患者さんの検査結果を一緒に考え、私の診察前に学生が直接、受診までのいきさつを聞き、時間が空けばお互いで討論を繰り返します。

診察室だけの実習ではなく、老人ホームやグループホーム、へき地診療所、いくつかの事業所の産業医としての活動の現場にも出掛けてもらいました。
夕方になっても終わらない日がありました。

開業医の1日は通常の診療が終わってからも夜間に会議などが待っています。
この会議にも医師会の許可を得て出席してもらいました。
その場で多くの他の医師たちとも交流が出来たことも非常にプラスになったようでした。

一方、患者さんの方はいつもと勝手が違うために、戸惑われ、相談事を忘れる、みんなに取り囲まれている感じで、うまく喋れなかったというような場面も少なくありませんでした。このあたりが次回からの検討課題です。

手探りで始まった実習でしたが、私にとってもよい勉強の機会になりました。
医学生の診察態度や言葉使いなどは、私が受けた20世紀の医学教育とは一線を画していましたし、長年にわたる診療でなんとなくわかっているような気になって、患者さんの訴えを聞いていなかったなあと反省し、「教えることは教わること」という言葉を思い出しました。

夏休みが終わると9月から最後のグループが実習にやってきます。

「いわみ談話室」から

[前頁]  [次頁]


- Column HTML -