そぞろごとトップ 検索 管理用 松本医院Home

心にうつりゆくそぞろごと
「心にうつりゆくそぞろごとを、そこはかとなく書きまぎらわしたるもの」を紹介しようと思い立ちました。
徒然草のごとく「日くらし硯に向かう」ほど暇ではありませんが、「心にうつりゆくよしなしごと」よいうか「そぞろごと」は、いくつも現れてきます。医学書を作るよりもこの方が人間味のある文になるのではないかと思います。
しばらくは「私の心にうつりゆくそぞろごと」とおつき合い下さい・・・

  第303段:「甘くはないよ」  

[前頁]  [次頁]

「さあ、今からお酒を飲みながら話し合いましょう、取り敢えずビールね!」と声をかけたところ、「ちょっと待ってください、僕はビールじゃなくて違う飲み物がいいです」、「あっ、私も苦いビールはお断りなので甘いものに変えさせてください」と様々なアルコール類の注文が出てくる光景が普通になってきました。

私がお酒の席に出始めた40年近く前には、酒の出る席の始まりは必ずといってよいほどビールからでした。
「なんでこんな苦いビールという飲み物の味が年上の人たちはおいしいというのだろうか?」、「この味がわからなければ味覚が大人になっていない証拠なのだろうか?」などと疑問に思っていました。

味覚の発達や味の嗜好についての知識がまとまってきたのは随分時間が経過してからでした。
生まれてきた時からビールのような苦いものが飲めるわけではありません。
最初は母乳やミルクですから温かく人肌の甘いものから口に入り安全な飲み物や味を理解します。
その後に塩気があっても安全な食べ物がわかるようになり、うまみの成分にも舌の理解が進んできます。
さらに酸味なども安全な食べ物と理解することができるようになりますが、小さな子どもたちが炭酸入りの酸っぱいジュースを受け入れるようになるには少し時間がかかります。
さらに苦味においしさを感じるというのが味覚の獲得の最後になるようです。

子供の時から甘いものばかりで、大人の食べ物に挑戦していない子供たちや若い人たちはどうも酸味や苦みが苦手なような印象です。
我慢して食べなくてよい、嫌いなものを無理して食べさせない、嫌いなものは残してよい、というような食事の指導方針が酸味や苦みを知らないで大人になっているのかもしれません。

食育の立場からは過食につながる「食べ残しをするな!」と指導しないようにお願いしていますが、適量をきちんと残さず食べるという考え方は、大人も子供も学ばなくてはならない食べ方です。

大皿に盛り付けられて自分が好きな量だけ食べられるブッフェスタイルの食事は便利なようですが、結果として何をどのくらい食べればよいかを学べません、酸味や苦味に挑戦するチャンスも失わせているのです。
きちんと一人前の食事の中に大人の味覚への挑戦部分を入れ、本当の食卓の姿を教えていないのではないでしょうか?

昔ながらの苦いビールやぷんと鼻につく熱燗のお酒などは子供に簡単には覚えられない苦手の味でした。
しかし、最近のアルコール飲料を眺めてみると、ジュースと間違えるようなデザインの容器に甘くて飲みやすい飲み物となってしまっています。
のどが渇いてうっかりジュースと思って飲んだらアルコールが入っていたというような経験をされた方も少なくないと思います。

甘くて飲みやすいアルコールが飲酒の低年齢化に拍車をかけています。
子供へのアルコールは厳禁です。
酸味や苦味がきちんとわかるようになって大人になってほしい気がします。

世の中甘くはないのですよ。


『いわみ談話室』より

[前頁]  [次頁]


- Column HTML -