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心にうつりゆくそぞろごと
「心にうつりゆくそぞろごとを、そこはかとなく書きまぎらわしたるもの」を紹介しようと思い立ちました。
徒然草のごとく「日くらし硯に向かう」ほど暇ではありませんが、「心にうつりゆくよしなしごと」よいうか「そぞろごと」は、いくつも現れてきます。医学書を作るよりもこの方が人間味のある文になるのではないかと思います。
しばらくは「私の心にうつりゆくそぞろごと」とおつき合い下さい・・・

  第305段:「正確に名乗れぬ就学児」  

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「おなまえは?」と聞く私、「はなちゃん!」と答える女の子、「えーっとね、ちゃんとお名前を言ってください」と言うと、「はな」、「あのね、先生の目を見てあなたの上の名前と下の名前を言ってみてください」とお願いしても、「はな」。
「・・・あっ、じゃあいいですから、今から胸の音や心臓の音を聴きますよ」。

昨年秋の就学時健診の時の会話です。

4月から小学校に入学する子供たちの健診では、学校医として子供たちと目線を合わせ、挨拶して、名前を言ってもらってから、聴診器をあてての診察が始まります。

きちんと大人と目線が合わせられない子、自分の姓名が言えない子などに出会うと、聴診器をあてる前に心身の発達などで、何か問題がありそうな子ではないかと疑わせます。

冒頭の子供の名前はもちろん仮名ですが、私の感覚からすれば、「石見太郎」とか「益田花子」と答えてもらいたいわけですが、ここ数年は「たろくん」とか「はな」というような答えが返ってきます。

今回の健診では十人に一人以上の子供が初回の「おなまえは?」の問いかけに姓名をきちんと名乗ってくれませんでした。
ほとんどの子供は改めて名前を聞くときちんと答えられるのですが、中には前述のように2度、3度と言葉を変えて質問しても、同じ答えしか返ってこない子もいました。

保健室に入ってきた子どもたちが自分で服を脱いだり着たりする姿も見ていましたが、時間がかかる子供が増えてきた印象です。
上着やシャツを脱いで、必要以上に丁寧にたたんでいる子もいれば、バサッと脱ぎ捨てて脱衣カゴの中にたたきつける子、2枚まとめて裏返しに脱いでそれをひっくり返して着るのに悪戦苦闘している子、脱いだり着たりが遅れて泣きべそをかく子、他人に関係なくマイペースを保つ子など、個性豊かな?集団です。

初めての小学校での経験で慌てていたり、緊張していたのかもしれません。
説明を聞いて前の人がやっているようにまねるということも苦手な子が増えた印象です。徐々に手のかかる子供が増えていて、学校の先生は大変だなあという印象は年々深まります。

上半身を脱いでの診察は一人一人のプライバシーが保たれるついたての中での健診です。
骨の変形や体の動き、虐待や自傷行為の傷跡も見落とさないようにしなければなりません。
短時間で心も体もチェックをするわけです。

秋に行われる就学時健診は、教育委員会側の特別支援の必要な子供たちに対する設備や人員配置の問題もありますが、親にとっても小学校に入学するまでに健康や発育・発達などに関して考える機会でもあります。
必要な再検査や予防接種などがあれば全てを済ませ、余裕を持って入学式を迎えさせてほしいのです。
それにしても、改まった場所で名を名乗る。目線を合わせて挨拶をするなどの基本的な日常の礼儀作法はいつ、どこで、誰が、どう教えるべきものなのでしょうか?


『いわみ談話室』より

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