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心にうつりゆくそぞろごと
「心にうつりゆくそぞろごとを、そこはかとなく書きまぎらわしたるもの」を紹介しようと思い立ちました。
徒然草のごとく「日くらし硯に向かう」ほど暇ではありませんが、「心にうつりゆくよしなしごと」よいうか「そぞろごと」は、いくつも現れてきます。医学書を作るよりもこの方が人間味のある文になるのではないかと思います。
しばらくは「私の心にうつりゆくそぞろごと」とおつき合い下さい・・・

  第309段:病人が元気を振りまく→患者主導で手作り寄席  

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「久しぶりにおなかを抱えて笑いましたよ。また来年も楽しみにしています」。
帰りがけにさまざまな方から声をかけていただきました。

平成14年から11月になると益田市横田町の「のぞみの里」で寄席が催されています。
お世話をするのは私の診療所の糖尿病の患者会のメンバーとボランティアスタッフです。
糖尿病の患者会という組織は社団法人日本糖尿病協会の支部組織が各都道府県にありその支部に医療機関や地域ぐるみの会で構成された患者さんや家族と糖尿病の療養指導に関心を持つ人たちの会で、お互いの励ましあいや正しい情報交換の場を持つことを目的にしています。
勉強会も必要ですが、お互いが仲良くなることも大切で、患者会ではバス旅行などのレクレーションなども開催しています。

病気だからお互いが励ましあうだけとか、何かをしてもらう受身の立場から、患者という自分たちのネットワークを活用して行動をしてみようという考えから、以前からバザーを開いたりしていました。
たまたま私が寄席の関係者と知り合うチャンスがあり患者会の方々に寄席のお話を紹介したら「笑う寄席なら楽しいから是非やりましょう。
チケットは患者会でさばきましょう。
受付や接待も患者会の方々で出来ることはやりますよ。」との返事でした。

病気を持つ人が、他の病人や元気な人をもっと元気にするために笑わせるボランティアをする。
こんな考え方で寄席をやろうと決まりました。
落語一つじゃ寂しいから、お囃子(はやし)も実際に説明を聞きながら生演奏してもらい、前座の落語、紙切り、太神楽の曲芸、真打の落語と寄席演芸を堪能してもらおうと、企画しました。

「せっかくだから高座もきちんと作り、本格的にやりましょう」と、とんとん拍子に話は進みます。
ポスターもチケットも患者会の方針を聞いて引き受けてくださる方が出てきます。会場の前のほうは畳を敷いて寄席らしく、会場の後ろのほうは足の悪い人のためにいす子席にしてとみんなで知恵を出し合いました。

1ヶ月ほど前から本格的な用意が始まりました。
整理券は患者会のメンバーにお任せしましたが、またたくまにチケットがなくなりました。

さて当日。
2度目、3度目でも初めてと同じです。
落語協会の関係者が会場に到着し、会場の準備に合格点が出たのでホット一息。

開演1時間前頃からそろそろ人が集まりました。
来場される方の車の誘導や脱がれた靴の整理、会場内の案内は患者会の会員やボランティアの仕事です。
開演の時間には患者会の方たちも入場してみんなで演芸を楽しみました。

大入り満員ですから、隣の人が体をゆすって笑われると自分もつられて笑い出します。
笑いの連鎖反応でどんどん笑いが大きくなります。
高座の上の芸がさらに大きく楽しくなっていきます。
お互いが楽しさを増幅しているのが良く分かりました。
お世話をされた方々の苦労が笑いで消えてゆきます。

患者会や病気を通してお世話される方から、お世話する方に替わることで自分の気持ちは大きく変わります。
今年も秋に開催予定の寄席を成功させるために、病人が元気と笑いを振りまきはじめます。

「笑う門には福来る」

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